東京高等裁判所 昭和24年(ネ)429号 判決
控訴人は「原判決を取消す。被控訴人の仮処分申請を却下する。訴訟費用は被控訴人の負担とする」との判決を求め、被控訴人は控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上の陳述は、控訴人において「昭和二十二年三月二十一日米神の臨時部落総会の終了後引つゞき開かれた漁業会総会の出席者は五十三名であつて、出席しない会員はこの総会が開かれたこと、その総会で役員選挙が行われたことを知らずにいたものである」と述べたほか、原判決事実摘示と同一である。
<立証省略>
三、理 由
昭和二十二年三月二十一日神奈川縣足柄下郡片浦村米神の部落総会があつて、その終了と同時に米神漁業会に関する論議が始まつて、部落総会に集まつた人々で漁業会総会を開くこととなり、理事会長松本啓作、理事高橋卓造、同廣石好一、同青木勘次郎、同鈴木宇吉、監事松本賢太郎、同廣石伊三郎の辞職を承認し、その後任として、控訴人鈴木信吉を理事会長に、控訴人鈴木勘右衛門、同長野啓太郎、同鈴木助右衛門及び訴外廣石忠兵衛を理事に、控訴人廣石利郎及び訴外松本利吉を監事に選任する旨の決議がなされたこと、当時米神漁業会の会員は全部で八十五名であり、右決議の際出席したものは会員の全部ではないこと(控訴人はその際の出席者は五十三名であると自白している)、右いわゆる総会は招集権限あるものによつて、あらかじめ招集せられたものでなく、從つて、当日出席しなかつた会員が全くかかわり知ることなく前記決議はなされたものであることは、いずれも本件当事者間に爭がない。およそ、社團の機関たる総会は社團の構成員全員の会議たるを本質とするから、構成員の全員が出席の機会を與えられるべきこと、條理の当然であり、從つて、社團の構成員の集会が総会と認められるためには、招集権限あるものによつて、社團の構成員全員にたいして総会を開く旨告知する処置がとられ、これによつて集まつたものであることが、最小限の要件である。
漁業会は社團の性質を有することはその根拠法たる水産業団体法にてらして明かであるから、米神漁業会の総会が権限あるものの招集なくして成立することは法律上不能である。
控訴人は、米神部落では、漁業会理事の過半数及び会員の過半数が出席しており、かつ理事の承認ある場合は、部落総会として招集された会合を漁業会総会に切りかえて決議をなし、欠席者もこれに異議ないものと認めることが慣行であつたと主張し、從前右いわゆる切りかえがたまたま行われたことは、原審及び当審における証人中のあるものの供述にあらわれているけれども、かような慣行があるとの事実の認められる疏明はない。のみならず、かりに右のごとき慣行があつたとして社團の総会の本質に反する慣行であるから法律上是認すべきでない。
控訴人は、本件の場合の議決事項即ち役員の辞任承認及び後任役員の選任は、米神漁業会会則第二十四條但書に「臨時急施ヲ要スル事項」にあたるから前記の決議は適法であると主張するけれども、右会則の規定は、適法に招集せられた総会において議決をする場合にあらかじめ議決事項の通知をしてなくてもよいとの意味であつて、招集がなくて総会が成立するとするものではない。
また、控訴人は前記三月二十一日の決議については、その後同年四月の六日、二十二日、二十七日に開かれた漁業会総会において、なんらの異議もなかつたから、追認されて有効な決議となつたと主張するけれども、前に説明したように、招集権限あるものの招集がなくて会員の一部分が集会したものは法律上漁業会の総会と認められないから、かような集会の決議についてその後の漁業会総会でなんらふれるところがないからと言つて、それが漁業会総会の決議に変ずるということは條理上あり得ないことである。
以上のような次第であるから、前記三月二十一日の決議によつて、それぞれ理事会長理事及び監事に選任せられたという控訴人等(米神漁業会を除く)はいずれも右のごとき地位を有するものではないと言わなければならない。
米神漁業会に関する登記に、昭和二十二年三月二十九日控訴人鈴木信吉、訴外廣石忠兵衛、控訴人鈴木勘右衛門、同長野啓太郎、同鈴木助右衛門の五名が理事に、訴外松本利吉が監事に選任せられた旨の記載があり、また、同年五月三日控訴人廣石利郎が監事に選任せられ同月四日就任した旨の記載があること及び、昭和二十二年三月二十九日及び同年五月三日には米神漁業会の総会が開かれなかつたことは本件当事者間に爭がない。從つて右のごとき登記はあつても右控訴人らはその登記のごとき地位を得るはずはないのである。
控訴人鈴木代吉が昭和二十二年四月二十七日漁業会総会において理事に選任せられたとして、その旨登記されていることは、本件当事者間に爭がなく、右総会は鈴木信吉の招集によつて開かれたものであるとの被控訴人の主張は控訴人の明かに爭わないところであるから、控訴人において自白したものとみなすべきである。鈴木信吉が当時米神漁業会の理事会長の資格を有しなかつたと認むべきことは前段説示の通りであるから、右四月二十七日の総会は招集権限あるものの招集によらないから、その決議は当然無効といわなければならない。從つてその決議によつて選任せられたという被控訴人鈴木代吉は米神漁業会の理事たる資格を有しないこと明かである。
控訴人はさらに、水産業團体法施行令第十九條ノ二を引いて、決議の日から一月内に決議取消を行政官廳に求めないかぎり決議は完全な効力を有するに至ると主張するけれども、右の取消請求の制度はとにかく総会の決議がなされた場合のためであつて、本件のごとく、招集の権限あるものの招集が全然なく、総会は成立せず、從つて、決議と称せられるものは法律上は総会の決議でないとされる場合に適用せらるべきものではない。
また、控訴人は、被控訴人らは昭和二十二年四月の六日、二十二日、二十七日に開かれた総会に出席しながら異議を述べず、高橋卓造はその際の議事録中に署名押印しており、昭和二十二年三月二十一日にも部落総会に引続き漁業会総会を開くことを主張したのであるから、右二十一日の総会の決議の効力を爭うことはできないと禁反言の主張をするが、かかる禁反言の原則は存しない。
以上の説示によつて、本件にたいする本案の請求理由ありと見えることは明かとなつたから、つぎに、本件仮処分の必要不必要の点について判断をあたえる。
昭和二十年春ごろ、全会員八十五名がいわゆる自営派五十四名反自営派三十一名に分れて、漁業会の運営につき全く相反する見解をとつて抗爭し、その後自営派中二十名は自営派を出て反自営派に入つたこと、その後引続き現在にいたるまで両派相爭つていること、前記三月二十一日の決議及び四月二十七日の決議の結果、米神漁業会の理事または監事の地位にありとして行動しているものは控訴人ら(但し米神漁業会を除く)のみであること、右控訴人らはすべて自営派に属すること、いずれも当事者双方の弁論の全趣旨から明かである。社團の構成員の全員が全く意見を異にする二つの大きな党派に分れて相爭う状況において、その社團の役員の全員がその一派によつて占められるときは、かかる役員による社團業務の運営は、中正を失いやすいことは、特に説明をまたずとも明かなことであり、この役員の地位が法律上深く疑問とせられて反対派により爭われる場合には勢のおもむくところ役員の行動はいよいよ党派的となり、社團自身の不利益をかもすに至るべきこと明かである。
漁業会が行政官廳の監督の下にあることは(原判決事実摘示債務者主張(九)(十)参照)直ちに仮処分を不必要ならしめるものではなく、調停手続が進行中であるとしても(同前(十二)参照)、これまた仮処分を不必要ならしめるものではない。その他控訴人が仮処分不要の理由として主張するところはどれも採用に價しない。
しからば、本案訴訟において、米神漁業会以外の控訴人らが理事会長、理事あるいは監事の地位にあらざることを確定する前にその職務の執行を停止し、これが代行者を任命する必要があること明かである。
從つて、本件仮処分申請はこれを許容すべく、かつ、代行者としては原審の通り任命するを相当と認められるから、原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないと言わなければならない。
よつて、民事訴訟法第三百八十四條第一項第八十九條、第九十五條によつて主文の通り判決する。
(裁判官 箕田正一 小堀保 藤江忠二郎)